水と泥と子ども同士 Vol.1
2015/11/15
秋の森のようちえんワークショップが始まりました。あいにく雨。しかし集合時は止んでおり、
本降りにならないことを願いながら、
子どもも大人も全員がレインコート姿で出発しました。
一段と秋が深まった舞岡公園…濡れた落ち葉の上を歩きました。
このワークショップでは、もみの木園の子どもたちの1日を一緒に体験していただくのですが、
一緒に過ごす子どもたち(参加者の子どもたちも、もみの木園の子どもたちも)が、
まず何を見つけ何を始めるのかを起点にして、ひとりひとりが始めたことを大事に見守り、
その意味を考えていきたいと思います。
ひとりひとりが見つける〝何か〟は、子どもたちを包む自然の中のものかもしれないし、
出会った〝他者=子ども〟かもしれません。初めて来た子どもも、半年ぶりに来た子どもも、
在園の子どもも、大きい人も小さい人も、誰もが何かを見つけ、何かを始めるはずです。
そして一緒に過ごす子ども同士の間に、何かが響きあっていくことも大事なことです。
私たち大人は、子どもたちが楽しみながら今日という日をつくっていけるように、支えていきたいと思います。
お弁当を食べたのは瓜久保の家。そのうちに雲の切れ間から青空がのぞき、ついにお日様が輝きました。
今日は雨のつもりだったので、天気の回復が嬉しかったです。お弁当の後、子どもたちはかっぱ池へ向かいました。
前週は池の水がなくなり、ひび割れた土が見えていたのですが、昨日からの雨で、池らしく少し水がたまっていました。
子どもたちは池のほとりにある〝お相撲しているかっぱの像〟が大好きです。この像のまわりに30cm位の水がたまっており、
まるで小さな池の中でかっぱが相撲をとっているように見えます。その小さな池を次々にやってきた子どもたちが囲んで、
水をチャプチャプして遊び始めました。足元はぬかるみ。子どもたちのからだは、次第に水と泥でべチャべチャになっていきます。
でも誰も嫌がらず、水と泥と子ども同士の世界に浸っています。この時、ご参加のお母さんから
「親子で遊びに来てもこんな風には楽しめない。やはり子ども同士で遊ぶ楽しさにはかなわないですね」とお話がありました。
きっと楽しさの質の違いがあるのでしょう。
少し大きい子どもたちは、かっぱ池を一周する〝やぁやぁリレー〟を始めました。
〝やぁやぁリレー〟は、ふたり組のかけっこです。かっぱの像の前をスタート地点にして、ふたりは反対方向に走っていきます。
池の周囲は木立や草で見渡せない所もあり、ひとりで不安を乗り越えて走っていくと、そのうちに相手と出会えます。
お互いに「やぁ!」と挨拶してスタート地点まで走り切ります。何度も走る子どもたちは、走ることが面白くてたまらない様子でした。
かっぱ池のまわりは、子どもたちの楽しい遊びで満ち満ちていました。
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子どものからだ Vol.2
2015/11/16
もみの木園の1日は、子どもたちが集まったところから始まります。
みんなが揃うまで待ちながら、子どもたちのからだは、もう動き出しています。
舞岡公園を歩く子どもたちは、里山の地形の起伏に合わせて、からだを動かしていきます。
今朝も向かったおおなばの丘では、なだらかな斜面に沿って、子どもたちが、そのからだをいっぱい動かしていました。
どこまでも駆け回りながら、初めての場所をからだで確かめているのでしょう。小さなからだを弾ませて、
自然にバランスを取りながら、TAくん(2歳)は自分のからだが動くことが面白くて仕方がない様子でした。
そんな友だちを、わくわくしながら追いかけるTOくん(2歳)のからだも、全身が弾んでいました。その様子を見て、
ふと思いました。この丘は、四方八方どの方向にも動けてしまうので、ここから一本道の山道に向かってみてはどうだろう…。
その山道までは、大きいお兄ちゃんに手をつないで連れて行ってもらうことにしました。
まず、初めて出会ったお兄ちゃんと手を
つなげるでしょうか。駆け回っていたからだの動きに、変化は起こるでしょうか。ここからは課題を立てた取り組みです。
もみの木園の年長組のDくんとRくん(共に6歳)に託しました。2歳の人からは、とても大きいお兄ちゃんに見えたことでしょう。
子どもと子ども、お互いの顔を見合って手をつなぎ、歩き始めました。動き回っていたときとは違う、しっかりとした足取りでした。
小さい人と大きい人が手をつなぐと、単に大きい人が小さい人のお世話をしているように思えますが、大きい人にとっても
「もし手をつなぐことを嫌がられたらどうしよう」とドキドキしたはずです。小さい人の歩調に合わせて歩くことも、
緊張して一所懸命だったと思います。そしてDくんはTAくんと、RくんはTOくんと、歩調を合わせて歩く感触を味わいながら、
共に落ち着いた笑顔になっていきました。つないだ手から手へ、人への安心感が伝わっていったのではないでしょうか。
子どもは全身で、感じ、考え、行動します。小さなからだの隅々まで動かして、〝感じ〟〝考え〟〝行動する〟自分をつくっていくのです。
今日も1歳10ヶ月のYくんが、全身を使って山道の階段を登って行きました。階段が高くて足が上がらないときは、
自分の膝を使って這い上がって行きました。その様子は、自分のからだを動かすことに夢中になっているようでした。
つまり自分と一心に向き合っているのです。子どもたちの小さなからだは、無限の力を秘めているように動きます。
動いてまわりのことをキャッチし、自分で確かめながら、自分の持てる力を出すことを知っていくのでしょう。
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自分を出す Vol.3
2015/11/18
このワークショップでは、もみの木園の子どもたちが育つ大事な場所である田んぼに皆さんを案内したくて、
毎日田んぼを目指しました。出会った子どもたちが、まず一緒に出来ることは〝歩くこと〟です。一緒に歩き始めただけで、
つながりを感じます。参加者の子どもたちは、お母さんが一緒だから安心ということもあると思いますが、
それ以上に自分から楽しいことを見つけようと、みんないい表情をしています。これこそ子どもの自然な姿であり、
素晴らしさだと思います。 そんな子どもたちがお互いをキャッチし合ったら、何も起こらないわけはありません。
朝の早いうちに、JYくん(6歳)とSTくん(3歳)が急接近し、両手でバチバチ叩きあいを始めました。
STくんのお母さんがそばで「たたかいが好きなんです。JYくんは加減してくれていますから」と見守ってくれています。
そばにいたJPくん(5歳)が「たたかいが好きなんだ。オレもたたかい好きだよ!」と共感の声。そしてそのたたかいに
加わろうとしたので、このたたかいは1対1だからと止めました。日頃からたたかいごっこでエキサイトして強い力で
パンチし合うこともあり、慣れないSTくんが痛い思いをしたらどうしようと冷や冷やしましたが、確かにJYくんは力を
セーブしているようでした。STくんとJYくんは、叩きあいながら遊び心が響きあって、ふたりとも楽しんでいることが
伝わってきました。たたかいながら相手が好きになるのですね。
小さい子どもたちは、相手の存在が気になると、手で押したり叩いたりします。これはおとなが心配する暴力とは違うものです。
しかし、からだには何らかの圧力を受けるので、びっくりしたり、怖かったり、痛くて泣き出したりします。そしてこれは大変!
とみんなが集まってくると、新たな展開になることもあります。今日も田んぼの上屋の近くの木に登ろうと、Mちゃん(3歳)が
並んでいると、Aちゃん(2歳)がやってきて、Mちゃんを押しのけました。そして、Mちゃんが木に登れないように木に
しがみついています。Mちゃんは、力いっぱい泣きました。そのMちゃんを助けようと、JYくんがAちゃんを後ろから抱きかかえて、
木から離そうと引っ張りました。JYくんはAちゃんを抱えたまま川辺の泥のなかに倒れ込み、Aちゃんも泣きました。
保育とは子どもたちの時間をつくることであり、ひとりひとりが自分を出して今起きている問題に臨みます。
問題が次々と連鎖していくことも多く、子どもたちは大忙しです。子どもは自分が否定されると、たちまち力を失ってしまいます。
だから、ひとりひとりが困って悶々とする心模様を表して、言葉にならない言い分が人に伝わっていくための時間がどうしても必要なのです。
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自然から受け取ること・自然に働きかけること Vol.4
2015/11/19
森のようちえんワークショップなのに、このお便りに書いていることは、自然体験のことよりも、
子どものことばかりと思われるかもしれません。ところが、これらのことは、自然と切っても切り離せない関係にあるのです。
今日もふたりの子どもの間で起こった出来事をめぐって、自然の力を借りた実感がありました。枝で叩かれたJPくん(5歳)と
叩いたKくん(4歳)。JPくんは泣き続け、Kくんは、どうすればいいのか分からず困り果てていました。
しばらく緊張した時間が続きました。まわりの人たちに先に田んぼへ向かってもらい、JPくんは私とふたりになると、
泣き声が小さくなりました。空を見上げたり、まわりの木々に目をやったりしています。一方、Kくんはちょっと離れた門のところから、
JPくんの様子を心配そうに見ていました。JPくんも、Kくんに気がつきました。すると突然、JPくんが「あっ!リス!」と叫び、
リスを見ようと動いた瞬間、KくんもJPくんの声に促されるように、リスを探して動きました。そしていつの間にか、
ふたりは肩を並べてリスを見ているではありませんか。ふたりは何も言葉は交わしませんでしたが、田んぼへ向かって歩き出しました。
子どもたちは、自然の力を借りて自分の気持ちを収めるということが、よくあります。これは決して人間関係から逃げているのではなく、
悔しい気持ちなどを自分自身で収めていくのに、自然の力を借りているように思えます。子どもたちは、石も土も枝も大好きと言います。
手に握っているだけで何か安心するようで、まるで心の支えにしているように持ち続けます。空も森もリスも子どもの手には届かないもの
ですが、それらを感じ、受け取ることが出来ます。
お弁当の後、SGくん(5歳)が「木登りしたい」とやってきました。中丸の丘で一番大きい桜の木に、みんなで登ることにしました。
木に近づくと、子どもたちの目の前にジョロウグモが表れました。子どもたちはピタッと立ち止まり、じっとクモを見ていました。
すると、クモは糸を渡って上へ上へと移動してくれたのです。次に子どもたちの前に立ちはだかったのは、イバラのとげ。
痛いのでよけながら慎重に進みました。大きな老木の足場を見つけてよじ登っていく子どもたち。初めてのSGくんも、登っていく
子どもたちの姿を追って挑戦しました。木の上には、お互いに居場所を調整して7人の子どもが登っていました。
木登りは、子どもが自然に対して自分が身をもって働きかける取り組みだと思います。今日も自然のなかで、子どもたちの時間が
つくられていくことの意味に気づかされた1日でした。
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